最近は日本が世界で勝つためにはどうすべきか、というのを日々考えています。というのも日系企業の駐在員として、ヨーロッパで仕事をしていますが、仕事の中でヨーロッパの企業の勢いや、GAFAを始めとするアメリカ大企業やスタートアップの存在感を感じることが多いからです。日本でも多くの企業が新しいことにチャレンジし、世界に打って出ようとしているとは思うのですが、ヨーロッパで、特にIT関連となると寂しいくらいにその存在を感じることが稀なのです。
もはや、日系企業だとか国籍とかは関係ないグローバルなビジネス環境になっているとは思うのですが、それでも日本発のものを見かけると嬉しくなりますし、何より、国籍は関係ないからと、自国の産業の発展を諦めては今後のグローバルなビジネス環境ではより厳しい生き方を選ばざるを得なくなると思うのです。
ヨーロッパはGDPRを始めとするアメリカ大企業によるビッグデータの支配を抑止しようとする動きがあるのは周知の事実ですが、やはり現地にいると、これからのデータの覇権を握るべく、政府、企業がよりアクティブにビッグデータやAIの技術開発やルールづくりを急ごうとしているのを感じることができます。
GAFAの支配する世界でビジネスをする上で何がカギか、どうすれば勝てるのかということをもっと考えるためにこの「After GAFA」を手に取りました。
概要
結論から言ってしまうと、この本で述べられているAfter GAFAの世界は今の少数の大企業への中央集権的構造から分散化構造になるということ。この分散化におけるキーテクノロジーがブロックチェーンであり、このブロックチェーン技術を用いた自律分散型アプリケーションが増えていくということが述べられています。このブロックチェーンを用いたビジネスにおけるポイントや日系企業の危うさなどがまとめられています。内容はブロックチェーンに寄っている気がしますが、非常に示唆に富む筆者の考えが述べられており、今後の世界、ビジネスを考える上での良い気づきを得られる本です。
現在の問題点
GAFAを始めとする大企業やユニコーン企業(AirbnbやUber等)が大きな力を持ってからだいぶ経ちますが、これらのプラットフォーマーによって作られたシェアリングエコノミーの世界ではリスクが利用者に押し付けられている、というのが現在の問題点です。今まではスタートアップは大企業になることを目指してきました。近年はスタートアップはプラットフォーム企業に買収されることを目標に置くことも多いようです。新しいサービス、エコノミーが結局プラットフォーム企業のものとなり、少数の大企業への一極集中の構造になってしまっているのです。インターネットの世界はGAFAを始めとするプラットフォーム企業の提供するサービスにより便利になった一方、プラットフォーム企業による独占支配で自由でなくなり、信頼も失われてしまいました。
カギはブロックチェーン
この失われた信頼を取り戻す鍵となるのがブロックチェーンです。
ブロックチェーンの特性は
- 理論上改竄ができない仕組みであること
- 特定の運用母体がないこと
です。
特に特定の運用母体がない、というのは大きな特徴で、これまではあらゆる基盤は特定の運用母体が運営するサービスとして存在してきたのに対し、運用母体なくして自律分散的に運営が可能になるということなので、よりフェアに(特定の権力に媚びることなく)サービスを利用できるようになるということだと思います。
この特性を活かして、いかに分散型の社会アーキテクチャを構築するかというのがこれからのビジネスでは大事になってきます。
ブロックチェーンビジネスの課題
インターネットで分散化が進んだ場合には個人情報を扱う運営組織がないのでKYC(Know Your Customer)、つまりどう本人確認を行うか、ということが重要になります。近年低迷している銀行などはこの仕組みを持っており、この仕組みはブロックチェーンの世界ではメリットだと筆者は言います。他の企業も新しいブロックチェーンアプリケーションにどうこの仕組みを取り込むのかが一つの課題になってきます。
もう一つはブロックチェーン技術そのものの認知の障壁が高いことです。なかなか実体を掴みづらく、理解にしくいブロックチェーンはそのアプリケーションを含め、一般社会に認知されるまでに時間がかかります。この障壁を取り除くことも考えていかなければなりません。
日系企業の課題
日系企業の課題はビジョンがないことです。欧州スタートアップは何を解決したいかを述べることができますが、日系企業は述べることができないことが多いようです。
日本が世界に向けて示す課題と解決策は何か、これを明確に描き、発信すること、世界から共感を得ることが日系企業における一番の課題だということが書かれています。
これは非常に共感する話でした。自戒も込めてですが、良い意味でも悪い意味でも、他社がやっていることを気にしすぎて、自社のビジョンを忘れてしまっていることがよくあるのではないでしょうか。自社の解決する課題は何で、何を世界に発信しているかを、たまには振り返り、世界を俯瞰して、自社の位置を確認してみるのが、必要だと思います。
日系企業はどうすべきか
日本は課題山積み国。課題のある現場こそイノベーションの萌芽。
日系企業は自国内にある課題に目を向け、そこで自治体や住民と連携し、新しい市場や共創相手、ローカライズされた社会実装を模索していく行動が必要です。
テクノクラシー
テクノクラシーとはテクノロジーを理解した専門家が資本家や政治家に代わって社会を支配と管理で導くという考え方です。より良い社会を作るにはテクノロジーだけでなく、テクノクラシーへ向けて倫理教育をしていく必要があるというのが著者の提言です。
日系企業はこのような人材を育てていくことが生き残りのためのカギだろうと個人的に思いました。日本はどちらかというと技術にこだわりすぎて、良い製品を生み出すことができていないように思います。社会に必要な仕組みをテクノロジーを用いてどう構築するか、これを考えられる人材が今後の日本を支える人材となっていくのでしょう。
最後に
ブロックチェーン技術そのものはもちろん前から知っていましたし、仮想通貨も自分も持っていますし、これからも注目の技術として認識していたものの、そのポテンシャルがGAFAの世界を変えるほどであるのか、というのは本書を読んでの気づきであり、考えさせられた点でした。
社会の構造、アーキテクチャから考えるというアプローチを必要とする技術という点がまたブロックチェーンという技術の魅力を引き上げてくれるところだと感じました。
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