「ソフトウェアファースト」を読んだ。

IT

 有名なIT企業といえば、Google、Apple、Microsoftなど思いつくのはアメリカの企業ばかり。今使っているスマートフォン、メール、SNSで日本発の製品、サービスはどのくらいあるでしょうか。

 今の社会は◯aaS= ◯ as a Serviceといって様々な技術や製品がサービスとして提供されている社会です。製造の時代で大きく成功し、成長した日本ですが、その後ソフトウェア開発競争の時代では敗れました。この本は、そんな日本企業が、ビジネスだけでなく社会全体がサービス化されるこの時代に、どのように企業変革を行い、成長していけばよいかの示唆を与えてくれる本です。著者は及川卓也さんです。この方はDEC、Microsoft、Googleなどの外資IT企業でエンジニアからプロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーを歴任され、その後スタートアップで新規事業の立ち上げを経験、今は独立されて企業の技術顧問やサポートをされている、日本のソフトウェアの世界ではとても有名な方です。

 エンジニア向けの本なのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、対象はITを活用した新規事業や事業変革を行っている方々となっており、今までソフトウェアに関わってこなかった方々にとっても読みやすい内容になっています。

 今回はこの「ソフトウェアファーストーあらゆるビジネスを一変させる最強戦略ー」を読んでみて、個人的に重要だと思った箇所をポイントを絞って、紹介したいと思います。

ソフトウェアファーストとは

 著者の提唱するソフトウェアファーストとは本書の中で、次のように定義されています。

ソフトウェアファーストとはIT(とそれを構成するソフトウェア)活用を核として事業やプロダクト開発を進めていく考え方です。

ソフトウェアファースト(及川卓也著)より

私の意訳を含めてもう少し分かりやすいストレートな表現にすると、今まで外部に丸投げしてきたソフトウェア開発を自社の中に組織を持って、自社で主導権を持って行うことで、今までできなかったITを活用しての事業変革を推進していきましょうという考え方です。

 ただITを使って事業変革しましょうではなく自社で主導権を持つというところがソフトウェアファーストの大事なところです。自社で主導権を持つとはどういうことか、それは自社でソフトウェアの方向性を決めて自社でそのソフトウェアを開発できるようにするということです。

 なぜ、この主導権を持ってソフトウェア開発を行う必要があるのか、それは冒頭に説明したとおり、世界がソフトウェアでサービス化された社会になってきているからです。最近は所有の時代からシェアの時代と言われてシェアリングサービスが台頭してきているのは既知の事実でしょう。これらは全てソフトウェアで実現されています。このような新たなサービスやビジネスを行う上ではソフトウェア開発なしでは成り立たない世界になってしまっているのです。

 私もブログで電動キックボードのシェアリングサービスを取り上げるなどしていますがこの世界の動き、どのようなサービスが出てくるか常に注目しています。日本に比べて海外にいるとこのサービス化していく社会のスピードをより早く感じる気がします。

日本企業がこの社会で生き残る術がソフトウェアファーストな企業になって様々なサービスを世界に発信していくということなのです。

Point:ソフトウェアで実現されるサービス化社会では日本企業はソフトウェアファースト企業に生まれ変わる必要がある。

日本企業のIT活用における課題

日本企業のIT活用、ソフトウェア開発における課題についても本書は触れており、その課題はいくつかありますが、いちばん共感した一つのみ、紹介します。

それは間違った製造業信奉から抜け出せていないという点です。

これはソフトウェアが今まで日本が得意としていた量産可能な工業製品であると捉えていたという誤りがあるということを指摘しているもので、今まで得意としてきた製造とは別のプロセス、アプローチを取らないとけないのにもかかわらず、これまでの成功パターン=工業製品を作るときのプロセス、アプローチでソフトウェア開発を行っている日本企業への警鐘です。また、ソフトウェア開発において、自社で開発するか外注するかという議論においても、自社の事業(=製造における外注戦略)ほどしっかり考えずに外注しまっている実態があるのだはと述べられています。

私の経験でも、日本企業はソフトウェア開発の外注に対して戦略を持たず実施していると感じることは多かったですし、ソフトウェア開発のアプローチも何もなく、すべて丸投げと思う案件もありました。ソフトウェア開発を丸投げすることを批判するつもりはないですが、そこに自社の戦略やソフトウェア開発に対する信念みたいなものが感じられなかったのがエンジニア側として寂しかったのを覚えています。

Point:日本企業は製造業の成功を捨てて、サービス化社会におけるソフトウェア開発のアプローチを学ぶ必要がある。

ソフトウェアファーストを実践する人材とキャリア

この本にはこのソフトウェアファーストを実践する上で必要となる組織や人材、キャリアについてもしっかりと書かれています。組織についての詳細は本書を読んでいただくとして、個人的にとても参考になったのは人材・キャリア形成についてです。ソフトウェアファーストの組織でのキャリアとしてエンジニア、エンジニアリングマネージャ、プロダクトマネージャをそれぞれ志向する場合のキャリアパスの考え方について書かれています。

例えば、情報システム部門で運用や保守を担い、今の業務の主が開発でない人はエンジニアかプロダクトマネージャを志向できるといった具体的な例示を持ってキャリアパスの描き方にアドバイスをくれています。

著者は今後ソフトウェアファーストが日本企業に根づけばSI企業は縮小していくと推測しています。SIerと呼ばれる企業で働いているエンジニアは日本のIT産業で一番多いのではないでしょうか。このエンジニアたちもこれから変わる世界に対して準備をしていかないといけないと思います。自分もSIer企業に勤めていた経験があり、強い危機感を覚えました。

SIerのエンジニアは事業会社に移って自社のプロダクトを開発するイメージを持って、他社のSI案件に関わり、プロダクトマネージャやエンジニアリングマネージャに必要なスキルを身につけることができる働き方にトライしていくのが良いでしょう。それができないと思えば、このキャリアパスを描ける会社に転職することも検討すべきだと思います。

Point:ソフトウェアファーストで必要な職種の核としてエンジニア、エンジニアリングマネージャ、プロダクトマネージャがあり、事業会社の人もSIerのエンジニアもこれらを志向したキャリアパスを描くことが肝要。

まとめ

本書は日本企業のソフトウェアの開発の問題点に切り込み、そこから見えてくるこれからの日本企業が進む道をわかりやすく示しており、事業変革を担っている人には特にですし、そうでない人にとってもソフトウェア開発を理解する上でとても分かりやすい本となっています。是非多くの人に読んできただきたいと思い紹介させていただきました。

また自分もソフトウェア開発に携わる人間の一人として、ソフトウェアファーストを実践していこうと思いました。

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