「ディープラーニング活用の教科書」を読んだ。

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ディープラーニングや機械学習を勉強中ということで関連する本を色々と読んでます。
今回は日経クロストレンド編、日本ディープラーニング協会監修の「ディープラーニング 活用の教科書」です。サブタイトルは「先進35社の挑戦から読むAIの未来」となっており、そのサブタイトルの通り、早い段階からAI活用を事業の中で行なっている様々な企業の事例を紹介する内容となっています。

出版は2018年10月と比較的最近であり、公になっている事例がよくまとめられているため、AIがどんなことができるか分からない人や先行する他者がどのようなプロジェクトをどのように進めたのか知りたいといった人が読むと良い本であると思います。

AIの技術の発展

第1章は「ディープラーニングの発展予測」というタイトルで今後のAI業界、技術がどう発展していくかに言及がされています。東京大学准教授の松尾氏の描くロードマップが示されており、画像認識→マルチモーダルな認識技術→ロボティクス→インタラクション→シンボルグラウンディング→知識獲得と技術が進化していくという解説がされているのですが、この大きな流れの中の自分はどこに位置付けられる仕事をしているのか認識しておく、というのが現場で働くシステムエンジニア、データサイエンティストにとっては重要だと感じました。

ちなみに、言葉が難しいですが、マルチモーダルな認識とは音声や映像などの複数の情報を複合的に分析して物事を認識することです。シンボルグラウンディングとは文字や記号、言葉などをそれを意味するものと紐付けることです。例えば、シマウマはシマ模様のあるウマであることを人間は見れば理解できますが、コンピュータにとってはシマウマはただの文字列でしかないのでその意味を理解できず、シマウマの画像に紐づけることができないのです。これがシンボルグラウンディング問題です。

AIの目指すところはやはり、人間と同じレベルで物事を考えられるところということですね。これに人間と同じ、もしくはそのさらに上をいく、ハードウェア=体が組み合わさったら本当にSFの世界が現実になるようで少し怖い気もします。少し前にMicrosoft社のAI「Tay」が暴走したことも話題になりましたが、理性や善悪の判断も必要なわけで、人間でさえ、善悪の判断を間違うことがあるのにAIがこの領域まできたらどうなるのかとも思いますね。この辺の研究がどこまでされているのかも気になるので、引き続きウォッチしていこうと思います。

データサイエンティストに求められるスキル

第1章の中で一番気になったのはこのAI業界の発展に関わる課題です。技術的な課題ではなく、人材。圧倒的に足りなくなると予想されています。ということはこれから勉強してもまだまだチャンスがたくさんあるということですね。

では、今後のこのAI業界を担う人にはどのようなスキルが求められるのでしょうか。
この本の中に出てくる定義に、データサイエンティスト協会がまとめたデータサイエンティストに求められるスキルセット、というものがあります。ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の3つです。つまり、ビジネスの課題を見つけて、どうデータを駆使すれば良いかを考え、実装・運用するという一通りのスキルセットが求められるということです。一人ですべてを、というのが理想かもしれませんが、現実はやはり厳しいでしょう。データサイエンスのプロジェクトではこれらのスキルを持った人たちがいるチームを作ることが一つのカギになります。

今後の従来のシステムエンジニアにも、AI、データサイエンスのスキルが求められてくるでしょう。もちろんデータサイエンティストとの協業という形で進めることもできますが、まだまだ人が足りないと言われている状況のため、求められる可能性が高くなると思います。今データサイエンスと呼ばれるプロジェクトに関わるエンジニアにかかわらず、例えば従来の企業内で使われる業務系システム開発に関わる人、この業務をAIにやらせたい、なんて話は普通になっていくのではないでしょうか。SI企業のみならず、ユーザー企業側でも自らの事業にどうAI、データサイエンスを活用するか、を考える力が求められるということでしょう。

従来のシステム開発ではビジネス上どこをシステム化するかを考え(=コンサル、上流のシステムエンジニア)、システムをどう作るか考え(=システムアーキテクト、アプリケーションエンジニア)、システムを実装する(=プログラマー、インフラエンジニア)というスキルが求められていました。これに対して、どのデータをどう使って価値を見出すか、それをどう実装するのかということを考えるところが今までと異なります。この違いをキャッチアップしていくことはそんなに簡単ではないですね。しっかり勉強しないと。。。。。
データの価値というものはなかなか表現しにくいものだと思います。ユーザ企業側が、どれだけ価値が出るか分からないものにどれだけ投資できるか、というのも今後の日本のIT、AI業界が世界に遅れを取るか取らないかの大きなカギを握ると思います。

数々の事例

この本の以降の章はほとんどは様々な企業の事例の紹介になっています。トライアルレベルで実施している企業から、業務作業の一部をAIに代替させて効果が出ている企業などレベルは様々ですが、どれも未来を感じさせる、とてもワクワクする事例が載っています。自分がAIを使って何かやれ、と言われてどうしていいか分からない、進めてきたけどなかなか最初から効果が見えづらく、このまま進めていいか分からない、などといった場合にはこのような他社事例を参考にAIの技術、実装のことだけでなく、プロジェクトそのものの進め方も含めて考えてみるのが良いと思います。

また、事例だけでなく、最後の章でどのような課題にAIを適用すべきかのヒントを与えてくれています(6章)。現状のAIは、説明性が重要な課題や自律的に問題を見つける必要がある課題には向いていない。一方で入手可能なデータを活用して人間が無限の時間を費やせば解決可能な課題には適用検討の価値があるとの考察が記載されており、これは非常に重要なことだと思いました。AIはまだまだ黎明期と言え、企業の中での活用事例もこれからどんどん増えてくるという状況です。多くの企業では、AIを使って何かしらやってみたいとか、どう使えば良いかわからないからやってみるとか、そのような類のプロジェクトはまだまだ多いのではないでしょうか。AI活用を検討する勘所というのを押さえておかないとプロジェクトが方向性を失ってしまうかもしれません。このような本を読んで、自分のスキル、会社やプロジェクトの位置をしっかり把握して、プロジェクトを進めていくのが肝要でしょう。

まとめ

日本企業でもAIやデータサイエンスの様々な事例があることがわかりました。また、圧倒的にデータサイエンス人材は足りなくなるという状況で、今からでもまだデータサイエンティストになるチャンスがあり、それにはビジネスとデータサイエンスとエンジニアリングのスキルが必要だということがわかりました。様々な事例を参考に、自分がいる領域、業界で、どこにどうやってAIを適用していくかをしっかりと見極めながら、プロジェクトを進めていくことが大事です。今、AI、データサイエンス、機械学習のプロジェクトでお悩みの方には参考書として一読されることをお勧めします。

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