「Amazon 世界最先端の戦略がわかる」を読んだ。

REVIEW

Amazonなしでは生活できないと言っても過言ではない昨今。
 Amazon1社を押さえれば現在のトレンドがわかり、最新のビジネス感覚を身につけることができるという著者、成毛氏が様々な角度からAmazonの強みについて述べられている本です。

ここ20年程度で急成長してきた Amazonに学ぶことがあると思い、手に取った一冊。

Amazonを理解する上で重要なキーワードと要点を解説します。

CCCとキャッシュフロー経営

CCCとはキャッシュコンバージョンサイクルの略で、商品が売れてから何日後にお金が入ってくるかを示す数値。 Amazonは概ねマイナス30日前後で推移しているようです。つまり Amazonは商品が売れる30日前にすでに現金を手にしているということになります。どのようにこのCCCをマイナスに維持しているかは明らかにされていないようですが、著者曰く、マーケットプレイスの仕組みがその一つと言えるようです。マーケットプレイスで商品が売れると消費者からAmazonが代金を受け取り、手数料を差し引いて販売者にお金を戻す。当然この間にはタイムラグがあり、Amazonはその間、無利子でお金を運用することができるのです。支払いまでの期間を2週間と仮定した場合、19億ドルに達するという試算もあるようで、その規模には驚きです。

なぜこのCCCがマイナスであることが重要か、ということですが、商品が売れる前に入ってくるお金を開発などの投資に回すことができるからです。Amazonがここまで急成長してこれたのはこの先に入ってくるお金を使って設備投資を適切に行ってきたから、ということにですね。このキャッシュに注目し、自社で投資をできるキャッシュフローを作り出したというところがAmazonの強みだということがわかりました。

知っている人にとっては当たり前の話なのかもしれませんが、このような経営目線でAmazonの強さ、みたいなことを考えたことはなかったのでとても勉強になる内容でした。

Amazonはロジスティクス企業

 AmazonといえはECサイトの大手と思っている人はもう少ないかもしれませんが、何の企業かと問われるとなかなか一言では言えないかもしれません。創業者のジェフ・ベゾスはロジスティクス企業と言っているようです。ロジスティクスは物流とそのコントロールや最適化を指す言葉で、この本では”兵站”として紹介されています。兵站とは戦場で軍の活動を維持するために必要な物資を必要なタイミングで届ける仕組みのことを指す言葉です。つまり、Amazonは販売者や顧客に必要なものを必要なタイミングで届ける仕組みをサービスとして展開することに注力している会社だということです。ECサイト企業だと捉えると単にものをたくさん売ってその利益で儲ける小売企業だと思いがちですが、Amazonの主軸は便利さを提供するサービス企業だということです。なかなか消費者からは見えづらいですが、Amazonは倉庫用のロボットを手がけていたり、アメリカでは運送業そのものにも参入しており、ロジスティクス企業としての存在感もはっきりしていると思います。今後は他社の荷物も取り扱っていくようですから、さらにロジスティック企業としての存在感を増していくことでしょう。

本の内容からは少し離れますが、国によって配送における要望のレベル感も違うということが海外に住んでみてわかりました。日本では日曜含めて配達日や時間を2時間刻みで指定できるし、受け取れない場合も再配達をしてくれます。ここドイツでは自分の経験だと、再配達ではなく近くの運送カウンターに取りに行くか、近所の人に預かってもらう、自分の家のドアの前に置かれているのどれかでした。日曜日に配送はありえません。日本でまだAmazonの配達が行われていないのはこのような日本の配送サービスに対する要求の高さからかもしれませんが、今後もその資金力の高さを生かした投資で配送技術を開発し、Amazonによる配送が100%になるのもそう遠くないかもしれません。

楽天とAmazonの違い

EC事業の大企業ということでよく比較される両者ですが、EC事業におけるその大きな違いについても述べておきたいと思います。楽天のビジネスモデルは出店する場所を提供してお金を得るというもので、お客さんはECサイトに出店してくれる販売業者。 Amazonのビジネスモデルは自社で仕入れた商品を販売してお金を得るということで、お客さんはサイトで買い物をする一般消費者。楽天は仮想市場=システムがあれば成り立つビジネスモデルのため初期に急成長できたのです。Amazonは物流システムの構築に時間がかかるビジネスモデルですが、一度構築してしまえば仕入れ量や配送などスケールメリットを得ることができ、さらに競争力を増していくことができます。どちらが良い悪いではないですが、今後の長期目線ではAmazonが有利なのかもしれません。

本の内容からまた少し離れますが、楽天は金融や、新しく通信キャリアとしての事業など様々な分野に進出している総合企業であり、そのポートフォリオからAmazonと単に比較できる企業ではなくなっています。個人的には楽天市場も使いますし、楽天カードも持っていますし、日本にいた時は楽天銀行や証券の口座も持っていました。楽天で買い物するとポイントがたくさんつく事も好きですし、最近では楽天ペイで実店舗での決済にもポイントがつくとあり、日本にいた時は結構楽天のサービスを使っていました。やはり使っていたサービスの内容から見ても金融系サービスの割合が高く、楽天もAmazonとは違う道(特に金融とこれから始まる通信)でさらに成長していくのだと思います。

今ドイツでは主にAmazonを使っています。日本と同じユーザインタフェースで同じように買い物ができるのでその点はとても良いです。来たばかりでどこに何が売っているかわからない状況ではAmazonが使えるということがとても心強いことに気がつきました。

フルフィルメント バイ アマゾンなどのサービス

これはAmazonで商品を売りたい業者に、システムや倉庫、配送などのECに必要なインフラを提供する仕組みである。一般消費者に良いサービスを提供するために販売業者にも自社開発のシステムや倉庫を貸し出し、利益を得てしまうのは流石だと思ってしまう。Amazonがこのようなサービスまで提供しているとは知らなかったです。

Amazonはこれ以外にもたくさんサービスを提供しています。この本では今展開しているサービスだけでなく、これまでにクローズされたサービスの多さについても触れられています。一見色々なサービスが成功しているように見えるAmazonですが、その裏にはたくさんの失敗があるということですね。また、そのサービスクローズの判断も早いようで本当に数年でなくなっているサービスがたくさんあります。その判断スピードと判断力もAmazonの継続的成長を支える力のひとつなのだと思います。失敗を許容できて、チャレンジできること、きちんと判断するというのはなかなか難しいことだと思うことが増えました。この様な企業文化の醸成も大切なことだと思います。

Amazon Go

サイバー空間とフィジカル空間の融合。この表現はこの本で使われている表現ではないですし、聞きなれない方にとってはなんぞやという表現かもしれません。ドイツはご存知製造業が強く、インダストリー4.0といってIoTやAIの技術を使って産業を変えていくという動きが活発です。その中で出てくるのがサイバーとフィジカルという言葉。サイバーは当然情報システムの中の話で、フィジカルは車や製造現場などの実世界のことを指します。とても大雑把に説明するとフィジカル空間をサイバー空間に表現することにより、実世界では実現できなかったことを実現しよう的なことです。

 Amazonもホールフーズを買収したり、Amazon Goの実験店舗を出店したりと、サイバーの世界からフィジカルの世界に進出してきました。前述のインダストリー4.0とはサイバーからフィジカルに来たという点で逆の動きでちょっと違うような気もしますが、サイバーとフィジカルの世界を融合させてビジネスを構築しようとしている点に共通点があり、サイバーで既に持っている情報と今後フィジカルに進出することで得られる情報を組み合わせることで生まれる付加価値はAmazonをさらなる先進企業に持ち上げる原動力になることは間違い無いと思います。実店舗への進出はもちろん利便性の提供や小売のシェアの拡大という側面が強いと思いますが、Amazon Goは最先端技術が詰め込まれた店舗でたくさんのデータも取得できます。この辺りのデータ活用などの戦略もAmazonの強みだと思います。

AWS、テクノロジー企業としてのAmazon

IT関連の仕事をしているという事でこの点に触れないわけにはいきません。クラウドサービスの雄でシェアNo.1。

当初は自社システムを動かしているサーバの余っているリソースを貸し出すところから始めたサービスのようですが、今ではIT業界のビジネス構造に対し、サーバの調達を不要にしたり、その豊富なサービスで開発する内容や開発の仕方を変えてしまったりという新しい風を吹き込んだ一大事業です。Amazonの中でも一番利益を上げているドル箱事業のようです。ECサイト運営や自社のロジスティクスを支える情報システムの開発等で培ったITの知見を生かして新しい事業を生み出し、それを自社の主力事業とは別に短時間で育てるというのはすごいことだと思いました。自社の本業ではないからといってシステムなどは全て外注という会社も少なくないと思います。もちろんAmazonも自社のエンジニアだけでECサイトや自社システムを構築したわけではないと思いますが、自社からIT事業を生み出すくらい自社にしっかりとITのスキル、技術を蓄積していたというところがすごいところだと思います。IT技術の進歩は早いです。ついていくだけでやっと、という企業も多いのに、創業10年ちょっとの企業で、かつ本業はロジスティクスと言っている企業がそこまで持っていけるというのはやはり、その資金力とITの最先端であるアメリカにあるというによるものなのかもしれません。

ここでも本の内容から少し離れますが、クラウド業界はGoogleやMicrosoftも今注力しており、現在はシェアNo.1のAmazonですが、今後は競争がより激しくなってくると思っています。さらにHybrid Cloudという言葉やMulti Cloudといった言葉も登場してきており、もはや一つのCloudを使えば全て完結するというものでもなくなってきており、必要なサービスを素早く提供するためには何と何を組み合わせれば早く良いものが安く提供できるかということをもっと突き詰めていくようなことになっていくと思います。Google、Microsoftはこの辺りのIT技術が本命の会社なのでこのへんの競争は今後も注目です。

またご存知Amazonのスマートスピーカに搭載されているアレクサ、電位書籍リーダのKindle、前述の倉庫向けロボットの開発、配送用のドローンなど、Amazonが開発しているテクノロジーはこれ以外にもたくさんありますのでこちらについても引き続き注目です。

まとめ

前述の通り、創業者ジェフ・ベゾス曰く、Amazonはロジスティクス企業とのことですが、個人的にはインフラ企業という言葉がふさわしいのではないかと感じました。ECと実店舗で小売としての一般消費者への接点が多い企業ではありますが、もはやAmazonで物を買うのは生活の一部でないと困らない存在でインフラと言えますし、FBAは他の販売業者のビジネスのインフラになっています。AWSは今やITシステムやITを使ったサービスを検討する際にはその利用が選択肢に上がる、重要なITインフラの一部です。結果的にそうなりつつある、というのが実態かもしれませんが、本の販売から始まった企業がここまで大きな企業に成長し、ここまで革新的なサービスを提供するということは誰も予想していませんでした。著者の主張では今のAmazonを知ること、研究することは10年後の経営学の教科書を読むことに等しいとのことです。エンジニアとしてはAmazonのテクノロジーも使い、会社員としてはしっかりと自分のビジネスに活かせるところは活かしていきたいと思いました。

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